ISO:DIS 45001:2026 労働安全マネジメントシステムの新しい側面
2026年改定案(ISO/DIS 45001:2026)が示す新しい安全文化は、
従来の安全衛生の枠を超え、組織全体のマネジメントの再設計を求めています。
1. 人間中心化 (Human-Centricity)
(安心化・個別化・多様化・ジェンダー配慮を統合)
心理社会的健康
ウェルビーイング
多様性と調和
ジェンダー配慮
年齢・属性の違いへの対応
→ 「平均的な労働者」ではなく「個別の人間」を守る時代へ
2. 柔軟化 (Flexibility)
(働き方の変化・摩擦が小さい円滑化・ハイブリッド勤務を統合)
デジタル課業
ハイブリッド勤務
多様な働き方
→ 固定的職場・時間を前提としない安全衛生へ
3. 境界拡大化 (Boundary Expansion)
(協働化・協調化・サプライチェーン管理を統合)
委託業務管理
サプライチェーン全体の安全
外部との協働
→ 自社だけ守ればよいから関係者全体を守るへ
4. 複雑・脅威化 (Complex-Threat)
(気候変動・質的化・緊張関連リスクを統合)
気候変動(心理・環境・社会)
新しい危険源
多層的リスクの増大
→ 全体領域の対象が広がり、単純な管理では追いつかない
5. 透明・予測化 (Transparency & Predictive)
(透明化・予測化・リーダーシップを統合)
説明責任
リーダーシップの明確化
未来的先読み・兆しの先読み
状態の先読み
→ 見える化と読みが安全文化の中核になる
※ 2026年に原案審議、2027年に正式発行の見込み
ISO 45001:2018 と ISO/DIS 45001:2026 の目的の対比
ISO/DIS 45001:2026 は、人間中心化・柔軟化・複雑化への対応を重視する新しい安全文化を提示しています。
一方、ISO 45001:2018 は従来型の職場を前提とした安全衛生管理の枠組みを中心にしています。
以下の表では、両者の目的の違いを主要な側面ごとに比較しています。
ISO 45001 安全衛生マネジメントの目的の対比
| 項目 | ISO/DIS 45001:2026 (改定案) |
ISO 45001:2018 (現行) |
|---|---|---|
| 人間中心化 Human-Centricity |
個別の人間を守る安全文化 心理社会的健康 ウェルビーイング 多様性・ジェンダー配慮 |
労働者一般を対象とした安全衛生管理 心理社会的要因は「危険源の一つ」 |
| 柔軟化 Flexibility |
働き方の多様化に対応する安全文化 デジタル課業 摩擦が小さい円滑化 ハイブリッド勤務 |
職場=物理的な場所を前提 テレワーク・ハイブリッド勤務は想定外 |
| 境界拡大化 Boundary Expansion |
関係者全体の安全文化 委託業務 協働 サプライチェーン全体 |
自社中心の安全衛生管理 委託先は「管理すべき事項」程度 |
| 複雑・脅威化 Complex-Threat |
複雑系リスクを扱う安全文化 気候変動(心理・環境・社会) 新しい危険源 ・多層的リスク |
物理的危険源中心の線形リスク管理 認知負荷・孤立・情報過多は明示されない |
| 透明・予測化 Transparency Predictive |
予測・透明性を中核とする安全文化 説明責任 リーダーシップの明確化 未来的先読み・兆しの先読み |
PDCA中心の管理型アプローチ 説明責任は「情報共有」レベル |
| 総合 | 人間中心・多様化・複雑化した 社会に適応する 「安全文化」を 構築する規格 |
従来型の職場における 「安全衛生管理の仕組み」を 整える規格 |
1. ISO 45001 が衛生領域へと拡張していること
ISO 45001 が衛生領域を強化したこと自体は現代的な進化ですが、 その反面、従来の「安全(Safety)」の体系が規格内で相対的に薄くなるという構造的課題が生まれています。
ISO/DIS 45001:2026 では、安全(Safety)よりも 衛生(Health)領域が大きく拡張しています。心理社会的健康、ウェルビーイング、認知負荷、孤立、情報過多、気候ストレスなど、従来は補助的に扱われていた衛生領域が、安全文化の中心的要素として位置づけられました。
そのため、ISO 45001 は従来の「安全衛生管理」から、“衛生(Health)を核とした人間中心の安全文化” へと進化しています。
2. 安全が相対的に弱くなることへの危惧/安全の再構築の必要性
ISO 45001 が衛生(Health)領域へと大きく拡張したことで、安全(Safety)は規格の中心からやや離れた位置に置かれる傾向が生まれています。心理社会的健康やウェルビーイングが前面に出る一方で、従来の「安全そのもの」をどう体系的に確保するかが、規格内で相対的に弱くなる懸念があります。
そのため、組織は安全(Safety)をあらためて再構築する必要があります。物理的危険源、機械安全、作業設計、安全技術など、従来の安全領域を ISO
45001 の外側で補強し、品質(ISO 9001)・環境(ISO 14001)と連動させながら “安全を再定義する” ことが求められています。
ISO/DIS 45001:2026 が衛生文化を強化した今こそ、組織は安全の基盤を見直し、「安全と衛生の両輪」を再び統合する新しい安全マネジメントを設計しなければなりません。
ISO 9001、ISO 14001、ISO 45001は組織マネジメントの必須規格
ISO 組織マネジメント 三規格の役割りと位置づけ (規格発行状況:2026年7月現在)
| 規格 | 役割の核心 | 対応する安全文化の側面 |
|---|---|---|
| ISO/FDIS 9001:2026 品質マネジメント |
組織運営の基盤 (透明性・説明責任) |
透明・予測化、 柔軟化の運営基盤 |
| ISO 14001:2026 環境マネジメント |
外部環境リスクへの対応力 (気候変動・社会的影響) |
複雑・脅威化、 境界拡大化 |
| ISO/DIS 45001:2026 安全衛生マネジメント |
人間中心の安全文化 (心理社会的健康・多様性) |
人間中心化、 柔軟化 |
1. ISO/DIS 45001:2026 が示す新しい安全文化と三規格統合の必然性
ISO/DIS 45001:2026 が示す「人間中心化・柔軟化・境界拡大化・複雑脅威化・透明予測化」という新しい安全文化の方向性は、単独の安全衛生規格だけでは十分に支えられません。これらの変化は、組織そのものの運営方式に影響し、品質・環境・安全衛生の三領域を統合した“総合マネジメント”を必要とします。そのため、ISO
9001(品質)、ISO 14001(環境)、ISO 45001(安全衛生)は、組織運営における必須の整合規格として位置づけられます。
2. ISO/FDIS 9001:2026(品質)が提供する組織運営の基盤
まず ISO/FDIS 9001:2026 は、組織運営の基盤となる「プロセスアプローチ」「継続的改善」「顧客価値の創出」を提供します。ISO/DIS
45001:2026 が求める「透明性」「説明責任」「予測的判断」は、品質マネジメントの仕組みがあってこそ実現できます。安全衛生の改善も、品質と同じく“プロセス”として扱うことで、属人的な取り組みから組織的な仕組みへと昇華します。
3. ISO 14001:2026(環境)が担う外部リスクへの対応力
次に ISO 14001:2026 は、気候変動・環境負荷・資源制約といった「複雑・脅威化」領域に対する組織の対応力を提供します。ISO/DIS
45001:2026 が新たに強調する「気候関連リスク」「環境心理負荷」「社会的影響」は、環境マネジメントと安全衛生が交差する領域です。環境と安全衛生を分断せず、統合的に扱うことで、組織はより広い視野でリスクを捉え、持続可能な安全文化を形成できます。
4. ISO/DIS 45001:2026(安全衛生)が支える人間中心の安全文化
そして ISO/DIS 45001:2026 は、働く人の心理社会的健康、ウェルビーイング、多様性、ジェンダー配慮、ハイブリッド勤務など、現代の労働環境における“人間中心の安全文化”を支える規格です。ISO/DIS
45001:2026 は、従来の物理的危険源だけでなく、認知負荷・孤立・情報過多・気候ストレスなど、新しい危険源を扱う方向へ進化しています。これらは、品質(ISO
9001)や環境(ISO 14001)と連動して初めて効果的に管理できます。
総じて、ISO 9001、ISO 14001、ISO 45001 の三規格は、組織の価値創造・環境配慮・人間中心の安全文化を統合する「三本柱」です。ISO/DIS
45001:2026 が示す未来的な安全文化を実現するためには、この三規格を整合的に運用し、組織全体を“人間中心のマネジメントシステム”として設計することが不可欠です。
ぴくはりさーち
代表 保科 修一
高山村 水中のしだれ桜